東京高等裁判所 昭和57年(ラ)357号 決定 1982年9月02日
抗告人(債権者)
有限会社野中経営計算センター
右代表者
野中郁男
右代理人
富坂博
相手方(債務者)
華陽産業株式会社
右代表者
小泉都志郎
第三債務者
国
右代表者静岡地方法務局供託官
鎌田岩男
(送達場所)
静岡市追手町九番五〇号
静岡地方法務局供託課
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一本件抗告の趣旨は、原決定を取消しさらに相当の裁判を求めるというにあり、その理由の要旨は、「抗告人の本件債権差押転付命令申請に対して、静岡地方裁判所は、右転付命令申請のうち相手方が第三債務者国に対して有する宅地建物取引業法二五条に基づく営業保証金五〇万円及び二五〇万円の取りもどし請求権に対する部分を、右請求権はその発生及び数額の不確定な債権であるから券面額のある債権にあたらず転付適格なしとの理由で、却下した。しかし、右取りもどし請求権は供託と同時に発生し、還付請求権が確定し行使されるまでは供託額と同一の券面額を有しているはずであり、原決定は宅地建物取引業法三〇条の解釈を誤つている。」というにある。
二当裁判所の判断
宅地建物取引業法二五条、二七条、三〇条によれば、宅地建物取引業者の営業保証金の取りもどしは、同法三〇条一項に定める取りもどし事由が生じたときに、同条二項の条件のもとにこれをすることができるのであり、同法二七条の還付請求権の行使があつたときは、これを控除した残額について取りもどしができるにすぎない。したがつて、右取りもどし請求権は、右残額が確定するまでは発生及び金額の不確定な債権であつて、券面額を欠き被転付適格を有しないものと解するのが相当である。これに反する抗告人の主張は、転付命令発令後還付請求権が行使された場合に不当利得の問題を生じ争いを後にのこす結果となり、相当でなく、採用することができない。
よつて、右と同旨の見解のもとに本件転付命令の申請のうち別紙差押債権目録記載の取りもどし請求権に対する申請を却下した原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。
(川添萬夫 高野耕一 鎌田泰輝)
差押債権目録<省略>